黄金時代の探偵小説をもとめて

欧州在住の推理小説愛好家が主にKindleで黄金時代の探偵小説を読んでその感想をひたすら綴るブログ

ジョン・ロードは退屈なのか? "Murder at the Motor Show" John Rhode

Murder at the Motor Show: A Dr. Priestley Detective Story (English Edition)

読みに行けるロード ?

私が推理小説に夢中になった、30年くらい前から、ジョン・ロードという作家の日本での知名度は、けっこう高かった(あくまで推理小説愛好家の中で、だが)と思う。けれど、翻訳は極めて少なく、そして少ない割に、なぜか評価がすでに固まっていたような気がする、つまらないって。

これはおそらくジュリアン・シモンズがその著作の中で、Humdrum として十把一絡げにダメだしした中に含まれていたことが大きいのだと思う、多分。

当時は「プレード街の殺人」とカーとの合作の「エレヴェーター殺人事件」あとはリレー長編くらいしか、手に入らない状況。シモンズの著作自体も翻訳はなかったと思うけれど、その評価はいろんなところで目にしていたような。つまりジョン・ロードという名前は、認知された時点で、否定的な評価と対になっていたわけだ。実作に当たることもできない中で。

 

しかし、今では愛好家の方々の尽力により翻訳もかなり増えてきて、と書いたところで、どれくらい増えているのか調べてみようと思い、密林に分けいってみたが、どうも現役で入手できるのは論創3の酷暑1の合計4作のようだな。。ややマシにはなったが、ドラスティックに変わったわけではない、ジョン・ロード ルネッサンスはまだ来ていないのだ(こないかもしれない)。

失われた黄金時代の探偵小説を求めて

私は別にロードのファンではないし、初めて読んだ彼の著作は「見えない凶器」だから(しかもトリックは大体想像がついてしまったから)、まあ、結局その程度の関心度でしかない。でも未訳の黄金時代の探偵小説をKindleで落穂拾い(前にも書いた通り、失われた傑作、など存在ないと思っている)している現在、気になる作家ではあるんだよな、名前は知っていて、しかも著作が多いので。

例の事典によれば、ロードはマイルス・バートン名義も含めて140作以上の長編を書いたらしい。

全く予備知識のない(例えばパンションとか)地雷を踏むか、それともそこそこ主人公とも顔なじみで、先の事典のようなどれを選んだらよいか、ガイドラインがある方を取るか、といえば、やはり、後者を選んでしまう。

ということで、事典を頼りに選んでみたのが”Murder at the Motor show"。 これは米題で英題は"Murder at Olympia"というらしい(Kindleではどちらの表題でも手に入る)。

 

あらすじ 

◯ モーターショーの死体

Dr.Oldlandはモーターショーを訪れていた。車をついに買い換えようかと思っているのだ。人込みの中新車の説明を聞いていると、突然叫び声を耳にする。人が気を失い倒れかけているのだ。心臓に手を当てるがもうこときれている。担架が運ばれるがもう彼にできることはなかった。駆けつけた巡査に自分の名前と住所を告げ、巡査はワレットから、死んだ男の名前を確認する。Mr.Nigel Pershore 。あとは警察の仕事、とDr.Oldlandは会場を立ち去る。

 ◯ 砒素の入ったオリーブの罠

同じ日の朝、Mr.Nigel Pensureの幼馴染であり家政婦でもあるMrs.Markleは家事を終え、自分の部屋で一休みしていた。と、いきなり静寂が破られ、部屋に駆け込んでくる召使。メイドが倒れて死にそうだというのだ。医者を呼び、一命はとりとめたものの、不審に思った医師の検査によりメイドは砒素を呑まされていたことがわかる。同時に電話が鳴り、彼女の主人の死が伝えられる。

 

Hanslet警視の調査により、砒素は、Mr.Pensureの部屋にあったビン詰めのオリーブに仕込まれていたらしいことがわかる。彼は消化を助けるために毎晩少しづつオリーブを食べていたのだ。メイドはそのオリーブを出来心から2粒口にしていた。

 

◯ 多すぎる殺害手段・・でも死因は?

Mr.Pensureの検死法廷が開かれる。検死を行った医師の証言によって驚くべき事実が明らかにされる。死者は、右ももをショットガンで撃たれた跡があり、胃と腸からは砒素が検出され、血液検査の結果、一酸化炭素中毒でもあったというのだ。しかし死因はそのどれでもなく、結論としては、急性心不全ということであったのだ。。。

 

退屈な道のり(ロード)?

Humdurmどころか、なかなか快調に読ませる序盤、一章ごとに視点を変え、変化をつけるのも悪くないし、検死結果で告げられる事実も、不可能犯罪とは逆の「可能犯罪」?の痕跡はあらゆるところにあるが、結局自然死?というバカっぽさギリギリの大風呂敷を広げてくれる。そうそう、こういうのを読みたかったんだよ。

この後、物語は、事件後失踪したまま姿を現さない姪、喧嘩別れした被害者の旧友の乱入、名のみ語られるアルゼンチンにいるという異母兄弟などが登場(したり登場しなかったり)で、さらにワクワクさせる展開が待ち受けているかと思うのだが、さにあらず。大きく開いた物語はさらに広がりを見せることなく、その後のロードの筆は、極めて端正かつまっとうな、Hansletの捜査に費やされる。シリーズ探偵であるプリーストーリー博士は、時折、姿を見せ警視にアドバイスを送るだけ。

こういうところが、退屈、と言われてしまうのかもしれない。ただ、尋問を繰り返し、少しづつ真実に近づいていく(かに見える)過程は、それなりに意外性を含み、悪くはない。警視がほぼ確証をつかんだ、と思えた終盤近く、プリーストーリー博士のいくつかの質問で、警視の仮説が簡単に崩されてしまうところなどはカッコよかった。残念ながら、ハウダニット的興味はそうそうに解決してしまうのだが、動機をあれと思わせといて実は、的なミスディレクションは悪くない。しかもそっちに気づいた読者のために、レッドへリングもしっかり配置している。

 

 職人技の建築

目を見張るような大伽藍ではないが、そこそこ堅実に作られた立派な建築物。プリーストリー博士の推理も、推論でしかない(本人はdeductionと呼んでいる)し、登場人物の焦点の当てかたも、最後がああならば、もう少しいろいろ考えた方がよかったのでは、とか、犯人の行動もその動機を考えると、少しおかしいような気が、とかいろいろ感想はあるのだが、でもそれなりに読んでいる間は、楽しい一作だった。

いや、それで十分ですよ。

 

ジョン・ロード、もう何作か読んでみようかな。

 

備忘録的評価

読みやすさ:7(序盤以降は一本道。英語もそんなに難しくない)

ストーリー:6(序盤の謎がどう広がるかと期待していたのだけれど。。)

探偵:5(最後に見せ場はあるが、登場頻度が低い)

その他の登場人物:5(普通の人たち)

謎の提示:8(このテンションですごいハウダニットになればと思ったのだが。。)

プロット:6(うまく読者の興味を違う方向へ向けている)

トリック:3(中盤でハウダニットは解決される)

その解明:6(うまくまとめているといえばまとめている。犯人の行動に少し疑問)

意外性:5(犯人については、あるっちゃある)

私的愛着度:6(いい意味での暇つぶしに最適)

 

合計 59(点数は別として、好印象でした。ロード第二章をそのうち。)

 

 

 

Murder at the Motor Show: A Dr. Priestley Detective Story (English Edition)

Murder at the Motor Show: A Dr. Priestley Detective Story (English Edition)